デジタル・ディスラプターについて今回は深堀していきます。
デジタル・ディスラプターとは、テクノロジーを駆使して市場や既存のビジネスモデルそのものを破壊する企業のことをいいます。このようなデジタル・ディスラプターを脅威に感じている方向けの記事です。
まずはデジタル・ディスラプターの具体的な例を挙げます。
デジタル・ディスラプターの例
デジタル・ディスラプターはGAFAMやBATHだけではなく、非常にたくさんあります。以下ようなディスラプターが提供するサービスは非常に便利で一度体験すると、元には戻れなくなるサービスが多くを占めます。
その結果、デジタル・ディスラプターに市場を奪われてしまう企業が多く出てくるわけです。以下はほんの一例です。
Airbnb | 空き部屋を持っている人がAirbnbに登録することで、部屋を求めている人に貸し出すことができるお部屋の仲介サービス。ホテル業界の宿泊市場に大きなインパクトを与えています。 |
NetFlix | 定額で映画やドラマを見放題。 DVDレンタル市場やテレビ放送にも大きなインパクトを与えています。 |
TESLA | 自動運転の自動車の開発を進めており、将来的に車のシェアリングを目指している。 まもなく自動車産業へ大きなインパクトを与えるといわれている。 |
Spotify | 定額で音楽聞き放題サービス。 音楽CD産業、音楽ダウンロード産業へ大きなインパクトを与えている。 |
Shopify | 低価格で自社で越境ECサイトを立ち上げられる。 脱Amazonの流れをつくった。 |
ディスラプターの理解を深める
5Forcesフレームワークに基づいてディスラプターがどこに位置するのか整理します。通常の競合は、同じビジネスモデルで、価格や品質、流通・広告戦略など4Pを駆使して競争します。しかし、市場を破壊しながら成長するデジタル・ディスラプターは、多くの場合代替品の位置に存在します。そして、対デジタル・ディスラプターとの戦いは、業界全体の脅威であるため、これまでライバルだった競合も仲間となりえます。
突破口の糸口の調査方法としては、まず自社の業界最大手はデジタル・ディスラプターに対してどのような対応しているのか?調査しましょう。
同様に2番手、3番手はどのような対応をとっているかを調査しましょう。
競合とデジタル・ディスラプターとの大きな違い
また、デジタル・ディスラプターの視点で見ると気づく点があります。多くの場合、業界内の競合からシェアを奪っているだけではなく、複数の業界にまたがって同時にディスラプションしていることが多くあります。
例えばiPhoneが破壊した市場はなんでしょうか?携帯電話端末市場だけではありません。デジカメ市場、腕時計市場、音楽CD市場、電卓市場、電子辞書市場あらゆる市場を破壊しながら成長を成し遂げました。
つまり、先ほど業界内の競合は仲間だと述べましたが、仲間は同じ業界にとどまらないということです。したがって、ディスラプターがインパクトを与える業界それぞれの対応を調査しましょう。
通常の競合は同じビジネスモデルの上でSWOT・STP・4P・4Cで切磋琢磨し競争しますが、ディスラプターはそもそもビジネスモデルが根本的に異なります。刀で戦っていた日本に爆弾で戦いを挑んできた元寇と同じです。戦い方のルールが根本的にちがうのです。
具体的な方針をきめる
具体的にディスラプターとどのように対峙するか?という点で、属人化の防止、アジリティの向上や、業務改善や業務効率化、仮説検証に基づく品質改善など、既存事業の強化を提案してくるDXコンサルタントもおられるでしょう。たぶん私も提案します。何を行うにせよ、ディスラプターとの対峙の過程で既存事業の強化の並走は避けられません。しかし、これはDXのほんの入り口に過ぎないわけです。
もっと根本的な解決策として多くは以下の選択肢があります。
- ディスラプターの傘下に入る
- ディスラプターと協業する
- 既存事業から撤退する(多角化経営、新規事業)
- スタートアップを買収してディスラプターになる
- 新規事業でディスラプターになる
これも重要なことですが、これらだけでなくディスラプターとの戦い方をゼロベースであらゆる選択肢を並べることが重要です。
深くディスラプターの調査を進めると実は、ディスラプターを構成する一部の部品や機能を、同士であるはずの競合が提供・協業していたというようなこともよくあることです。つまり、ディスラプターの傘下に入ることも安定を取り戻すうえで重要な意思決定の一つです。例えばiPhoneの部品の13%は日本製の部品です。
またディスラプターと業務提携や合弁会社設立など協業するケースもよく行われます。日本の民放キー局はhulu、amazonプライム、Netflixなどと協業を模索しています。
また、既存事業からの撤退も重要な選択肢にいれるべきです。既存の資産・ノウハウ・ブランド・顧客を最大限生かせる別の市場への多角化経営への取り組みです。
次に自社がディスラプターになることについても述べます。そのためにディスラプターについて理解を深めましょう。
そのディスラプターはいつ生まれたのか?
つぎにターゲットとなるデジタル・ディスラプターは、一体いつからディスラプターとなったのか?ということです。デジタル・ディスラプターであっても他の製品・サービスと同じくライフサイクルに乗って成長しています。
市場を破壊し始めたデジタル・ディスラプターの多くは、成長期入って急激な成長をとげている段階です。成長期に突入し市場に受け入れられ始めたディスラプターの勢いを止めることは困難でしょう。
市場を支配される側の業界が成熟期あった場合、このタイミングから衰退期に突入することになる可能性があります。衰退期に元々いた業界は加速度的に市場規模を失います。
ディスラプターの卵を見つけて投資する
着目すべき点は、まだ導入期に次期ディスラプター予備軍がいる可能性があります。成長期に突入する予備軍を見つけることができれば、彼らとの関係構築によってディスラプター側になれる可能性があります。
知っておくべきことは、あのGoogleでさえ、Lycos、Infoseek、Yahoo、excite、Altavista…よりもっと後発の12番目のサーチエンジンであるという事実です。一度はサーチエンジン市場を支配したYahooも後発のGoogleに市場を奪われました。つまり、特にデジタルの世界では一度市場を支配できても、それを維持し続けることは非常に困難です。これがデジタル・ディスラプターの最大の弱点です。
将来ディスラプターとなりうる可能性を秘めたスタートアップを見つけ出し投資することで社内の体制など大幅に時間を削減する方法もあります。シード期もしくはアーリー期のディスラプター予備軍を発掘するのは並大抵のことではありません。しかし、シード期、アーリー期の名もなきベンチャーをディスラプターに御社とのシナジーに確信があれば、共にディスラプターへの成長を期待できます。
ただ問題は無数にあるディスラプターの卵の中からディスラプターに成長できるスタートアップは数社しかないということです。その中からいかに見つけ出すことができるか?困難を極めます。
結局のところ自社がスタートアップを支援しディスラプターにまで育てるという動きになります。その際に自社の既存ビジネスと利益が相反するからブレーキを踏ませるようなことがあっては、共倒れになってしまうということです。むしろ、既存ビジネスから人員を移動させる計画が必要です。
自社がディスラプターになるということ
ベンチャーに出資して囲い込む以外にも、社内ベンチャーなど様々な方法で新規事業を立ち上げ、自社がディスラプターを目指す選択肢もあります。その際に乗り越えるべき障壁の例を挙げます。
まず、そもそも何を始めるのか?という点です。先に述べた属人化の防止、アジリティの向上や、業務改善や業務効率化、仮説検証に基づく品質改善などは、新規事業ではありません。自社の内部からのアイデアの他、競合の取り組みやベンチャー企業も含めて外部のアイデアも収取しましょう。
特に0→1の新規事業の立ち上げで重要とされるのは、狙う市場の規模と、競合がいない市場を狙うことが重要だと一般的に言われます。スタートアップ企業の失敗理由に「市場がなかった」という例は少なくありません。斬新なアイデアだけでは事業化できないのです。
また、利益相反が起こりうるディスラプターになる方針に決定するだけも、様々な社内部門、グループ企業や取引先など、さまざまなステークホルダーへもインパクトを与えるため、既存事業への利害関係の調整や強いリーダーシップが不可欠となります。
次に立ち上げ後しばらくは、費用も掛かり収益性も低いため、継続的な投資が必要になります。特に既存事業と利益相反する事業であるため反発も多く、投資家・経営層による強力なコミットメントが必要です。
つまり、経営陣の強力なコミットメントがなくては実現できません。また、撤退するための指標もあらかじめ決めておきましょう。ディスラプターになるために有益なフレームワークをまとめまたので、よろしければこちらも読んでください。
次に実際にDXを繰り返してデジタル・ディスラプターになった事例を紹介します。
DXを繰り返してディスラプターになったNetflixの事例
現在Netflixは、日本の民放キー局5社のコンテンツ制作予算の4倍以上のディスラプターの代表格です。このNetflixの4回のDXの遍歴を追うとDXとはどいうことなのかイメージしやすくなると思います。
1回目のDX:無店舗DVDレンタル事業
NetFlixは1997年8月29日に創業しオンラインでDVDレンタルを受け付けるサービスを世界で最初に始めました。(日本では2002年にライブドアが同種のオンラインDVDレンタルサービス「ぽすれん(現:ゲオネットワークス)」を始めてていた)DVD貸出も返却も郵送です。創業期から無店舗型のDVDレンタル事業を世界に先駆けて行っていたという訳です。また、仮にNetflixが実店舗を持っていて売上を安定してあげていたら、実店舗と利益相反を起こす為なかなか無店舗へ踏み出すことはできなかったでしょう。
NetflixはDVDレンタル事業としては後発であるため、0→1で事業を立ち上げるには大手との差別化が必要です。世界初の郵送のDVDレンタル事業は、近所にDVDレンタル店が無いエリアで受け入れられたのでしょう。アメリカ大陸は広大なのです。
しかし、この時点ではNetflixはまだまだ星の数ほどあるスタートアップの1社にすぎません。
2回目のDX:サブスクリプション
1999年9月には定額制でDVDレンタルサービスを開始しました。延滞金・送料・手数料が全て込みで月額15ドルという画期的なサブスクリプションサービスでした。
通常DVDレンタルビジネスは延滞金による売上が多くを占める延滞金ビジネスともいわれる事業なのです。貸金業での返済が遅れた場合の返済遅延金の利率と比較するととてつもない利率なわけです。
Netflixはその収入源を捨て、6本借りると返却するまで次のDVDをレンタルできないというサブスクリプションモデルを発明し先駆けて移行したわけです。
2000年ごろにはNetflixは60万人を超える会員を抱え2002年にNASDAQに上場。2005年には会員数が420万人を超えた。取扱作品数も35,000タイトルを超え、毎日100万枚DVDをレンタルしていました。
この時点で実店舗型のDVDレンタル事業者にとっては、デジタルディスラプターとなっていたといえると思います。にもかかわらず、2012年にレッドボックスに売却することになりました。
3回目のDX:ストリーミング事業
2007年現在のNetFlixのコアビジネスであるビデオ・オンデマンド方式によるストリーミングサービスに移行しました。主にネットテレビやiPhoneやiPadの他、Xboxやプレイステーション、Wiiなどゲーム機などで視聴できるサービスでした。
2012年にはストリーミング配信サービスの利用者は2710万人を超え、売上は9億4500万ドルになり、2014年7月に5000万人を突破。
グローバル化の一環として2015年に日本法人Netfllix株式会社を設立し、フジテレビとのコンテンツ制作提携、ソフトバンクとの業務提携を行い9月に日本でのストリーミング配信を実施。
4回目のDX:自社コンテンツ制作
そして4回目のNetflixのDXは、ついに自社でコンテンツを作り始めました。先にも述べた通り、日本の民放キー局5局のコンテンツ制作費の総額より、Netflixの方が4倍のあるわけです。
4回目のDX以降
こちらで紹介する本の中にもNetflixはたびたび登場します。NetFlixのDXはまだ終わりません。NetFlixがこれからどこに向かっているか知ることができます。
ここで重要な事は、既存事業の何倍もの速度でディスラプターはDXを繰り返し進化しているということです。
また、NetflixのDXとは、AIを使うとかMAを使うといったツールなどを導入するというレイヤーの計画ではなく、顧客に何をどの様に提供するか?というレイヤーでビジネスモデルから作り変えることで圧倒的な差別化を図ることが、成功の秘訣だったのではないかと思います。
まとめ
NetFlixのDXの事例では毎回ビジネスモデルが変わっていることがおわかりでしょうか。DXはアナログな業務をシステム化する事ではなくビジネスモデルまで変える事といわれるのはこの辺の変革になります。アナログな業務をシステム化するなどということは、変貌を繰り返すビジネスモデルの足かせにならないようにガンガン行う必要があります。
今回はデジタル・ディスラプターについて考察しました。実際のディスラプターを深堀して自社の経営ビジョンを定めましょう。
いくつか未来を考察するために役立つであろう情報をまとめたので是非参考にしてください。
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